禁止方向を避ける姿勢制御
観測のために,宇宙機の向きを 95° 変えます。ところが,その途中にちょうど太陽があります。搭載したカメラを太陽に向けると強い光で損傷するおそれがあるため,太陽のまわりは向けてはいけない禁止方向です。最短経路では禁止方向を横切ってしまいます。下のアニメーションは,この問題に本研究室の姿勢制御を適用した計算結果です。
画面の読み方
太陽・禁止方向・2つの観測対象は,画面上にラベルが出ています。線の色は次のとおりです。
- 青緑 — カメラが実際に向いている方向と,通ってきた軌跡
- 黄 — 修正した目標。制御器がいま目指している方向で,青緑がこれを少し遅れて追いかけます
- 赤 — 最終的な向きへそのまま向かったときの経路。禁止方向を横切るので,実際には選べません
- 橙の円錐 — 太陽から 25° 以内の禁止方向
太陽との角度は画面上に数値で表示され,25° を下回ると赤くなります。
なぜ回り込むのか
太陽を避ける回り道を,あらかじめ計算しているわけではありません。制御器そのものは,太陽の位置もトルクの上限も知らない,ごく普通の制御器です。変えているのは,制御器に与える目標値だけです。
障害物のある部屋でドローンを動かす場面にたとえると分かりやすくなります。最終的な目的地をいきなり目標にするのではなく,目標値を少しずつ動かし,障害物にぶつからない範囲でだけ先へ進めます。ドローンは,その目標値を追いかけているうちに,障害物をよけて目的地に着きます。
姿勢制御でも同じ原理を使います。目標の姿勢は,最終的な向きへ少しずつ動いていきますが,そのまま進むと禁止方向に入ってしまうときは,その方向へは動きません。画面の黄色い光線がこの修正した目標です。宇宙機が禁止方向を回り込むのは,進んでよい方向だけが残った結果であって,回り道が最初から決まっているからではありません。「安全余裕の使用率」の計器は,いまの状態が制約にどれだけ近づいているかを表しています。
この方法の長所は,計算が軽いことです。動作中に最適化問題を解く必要がなく,あらかじめ導いておいた式を評価するだけなので,宇宙機に載る小さなコンピュータでも動きます。考え方は研究内容のページにまとめてあります。
結果
この制御を使うと,太陽に最も近づいたときでも 33° 離れています(下限は 25°)。リアクションホイールに要求するトルクも,上限の 18 % に収まりました。
比べるために,同じ制御器へ最終的な向きをそのまま目標として与えたものが,画面の赤い経路です。太陽まで 6.9° に近づき,トルクは上限の 2.9 倍を要求します。その代わり,制約を守るほうは向きを変え終えるまでに約 6 倍の時間がかかります(誤差 1° 以内に収まるまでの時間は,制約を守る場合が約 230 秒,守らない場合が約 40 秒)。
この計算に含めていないもの
これは制御の考え方を示すための計算です。外乱トルク,姿勢変更の速さの上限,リアクションホイールにたまる角運動量の管理,地球や月の方向に対する禁止方向など,実際の運用では併せて考える必要のある要素は含めていません。
出典
定式化は SO(3) 上の Explicit Reference Governor(ERG)です。
- Explicit reference governor on SO(3) for torque and pointing constraint management — Automatica, 2023
- Attitude Constrained Control on SO(3): An Explicit Reference Governor Approach — IEEE CDC, 2018
計算は事前に済ませてあり,このページはその結果を再生しているだけです。ブラウザ上で物理計算そのものを実行する車輪付きドローンのデモは,シミュレータのページにあります。